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小川一水「老ヴォールの惑星」

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
(2005/08/09)
小川 一水

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ツイッター上での建設的なPOST(思弁?)が印象的な小川一水氏の中編集。NOVA4に編まれた「ろーどそうるず」や「天崖の砦」を読んだときにも思ったが、斜に構えないストレートな筆致に好感をもつ。先に云っておく、超オススメである。

「ギャルナフカの迷宮」
ゲーム的シチュエーションな一篇。刑期が定められていない “投宮刑” によって、脱出不可能な地下の迷宮に投獄される主人公テーオ。所持品はエサ場と水場の示された地図のみ。人食いに身をやつした元囚人がいきなり登場するなど、物語はサバイバルホラーな幕開けをするが、生き延びるために疑心暗鬼になった囚人たちとの対峙を経て、迷宮に秩序(社会)を築こうとするテーオの奮闘が描かれるビルドゥングスロマンの様相を呈していく。残虐で殺伐としたシーンもあるが、全体を覆うのは人間を信じる視点だろうか。ラストの力強さも印象的。

「老ヴォールの惑星」
巨大なガス惑星に棲息する知性体が種の存亡を賭けて異星人(他の種族)とファーストコンタクトを試みようとする叙事詩。長命な彼らは死を畏れず、それよりも何よりも蓄積した知識を尊ぶ…。小林泰三氏の「ΑΩ」も似たような生態の生命体が出てくるが、SFではよくある設定なのだろうか? ただ、この生態が彼らの高潔なキャラクター性を育み、サクリファイスな感動へと展開していく。
【※ここちょっとネタバレ含む】彼らの願いは成就し、いよいよ異星人(!?)とのコンタクトに成功するが、それを為し得るのが、惑星の危機的状況をもっとも諦観して休眠に入っていたテトラントという個体だったのが、感動的なラストに微妙な雑味を加えている。意図的なものだろうが、この辺は意見の分かれるところかも。
で、この一篇も「天崖の砦」同様、表紙に助けられる。これがなかったら、この生命体の姿形が想像つかないところだった…(苦笑)

「幸せになる箱庭」
木星軌道上に設置された異星人の機械(ビーズ)。放っておいたら太陽系への深刻な環境悪化をもたらすその機械撤去を要請するべく、異星人(クインビー)の母星へ向かう人類の精鋭チーム…。この筋立ても面白いが、こうした前段を労して語られるのは、現実と非現実(ここでは“トランザウト”と呼ばれる)の脆い関係性。その主題を深く追求していく、主人公とクインビーの対話(対峙?)シーンが白眉。

「漂った男」
陸がなく海ばかりの惑星パラーザに不時着(遭難)し、救助を待って海面を漂い続けるパイロットのお話。そんな星新一っぽいショートショートな設定とけっこうある残頁数を比較して「このワンシチュエーションでこんなに引っぱるの?」ってな不安もおぼえたが、何のことはない、読み終わったら傑作ばかりのこの中編集でいちばんのお気に入りとなった。
真摯な作風の小川氏らしく、このトンでもない設定を茶化すのではなく、描かれるテーマは、極限におかれた人間の心理状態。漂う主人公・タテルマ少尉の愚痴っぽいキャラが軽妙さを醸しだし、怒ったり喚いたり泣いたり笑ったりとワンシチュエーションでも飽きることはない。そして物語は、通信で励まし続けるタマリ中尉との友情を軸に、残された妻とのやり取りから、軍部の思惑、揺れる戦局等の大状況が交差していく。
時折、通信に登場(乱入)してくる宗教家や大量殺人犯とのやり取りを通じて、実存への深い考察が展開するが、その辺は小川氏らしく、哲学や宗教やスピリチュアルに偏らずぼやかさず、極太の人間ドラマに仕上げているのが嬉しかった。
いやしかし、人間ひとり海に漂わせてこういうお話を描けるのは凄い!
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.05 2011 BOOKS comment0 trackback0

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機械猫髭

Author:機械猫髭
片田舎の某フリーランサー。当ブログは個人的な外部記憶装置として始めました。内容は和製のミステリ&ホラー、そしてSF。それと文庫派なので、ハードカバーやノベルズが文庫化されると買い換える派です。

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