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三島浩司「ダイナミックフィギュア」上

ダイナミックフィギュア〈上〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)ダイナミックフィギュア〈上〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
(2011/02/25)
三島 浩司

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いやあ…こんなの初体験かも知れない…。というか、めっちゃ読むのに時間がかかった(いやまだ上巻読み終わっただけだが)。つまらないから遅いってわけじゃなく、そのまったく逆で、個人的には本年度ナンバーワンにしたいくらい面白いんだけど、なのになぜか読み進まない…というのが初体験という意味。
要するに、リーダビリティの対極というか、まったく読み手の体温を上げてくれないのだ。それが読み進まない真相だと上巻の途中で気づく。それはなぜか? ここで描かれる異常な世界があまりにも“正常”に描かれているからなんだな。だから、異常だろうとなんだろうと、それが日常であるなら、登場人物も淡々と目の前の出来事に対処し処理していくので、こっちの体温も上がらないというわけだ。ただ、その異常な日常の正常さがすごい作品だ。

で、かなり入りくんだ設定なんで、アマゾンさんから梗概(というか、ノベルスの裏に記載されてる梗概そのまんまですねこれ…)を抜粋させてもらい、その後、自分なりの補足をしてみたい。

太陽系外からやってきた謎の渡来体が地球上空に建設した軌道リング・STPFは、地球の生物に“究極的忌避感”と呼ばれる肉体的・精神的苦痛を与える作用があった。リングの一部は四国の剣山に落下し、一帯は壊滅する。そこから発生した謎の生物・キッカイは特殊な遺伝メカニズムにより急速に進化し、駆逐は困難を極めていた。日本政府はキッカイ殲滅のため、圧倒的な力を持つ二足歩行型特別攻撃機・ダイナミックフィギュアを開発、栂遊星は未成年ながら従系オペレーターとして訓練を続けていた。しかし、巨大すぎるその力の使用には世界各国との不断の政治的駆け引きが必要とされ、遊星の人生もまた大国のパワーバランスや思想の対立に翻弄されていく―。日本SF新人賞作家が満を持して放つ、リアル・ロボットSFの極北。

…リアル・ロボットSFの極北というか、“アンチ・セカイ系”と断言したい! …まあ下巻の進行次第では撤回するかもだが現時点では間違いなくそう。

渡来体とは、所謂、宇宙からの侵略者ですね。ここでは“カラス”と呼ばれる。 軌道リングを建造するくらいの超絶テクノロジを有するだけに、すわ地球全滅か?…と思われたのだが、ここでカラスを駆逐するべく、別の知的生命体が地球にやってくる。その名を“クラマ”と呼ぶ。この辺が凡百の侵略者ものと一線を画するツイスト感があってタマラナイですね。
さてそのクラマ、本当に人類の味方?…現時点では、まだまだ謎が多く含まれるが、取りあえずカラスの地球侵攻を圧倒的な力の差を見せつけて阻止してくれたクラマではある。だが、その戦闘のさなか、軌道リングの一部がニューギニアと日本の四国に落下。この落下したSTPF(成層圏に建造された人知超越的なプラットフォームの略)の欠片が、人類だけでなく、地球上のあらゆる生命体に(微生物レベルにまで!)、“究極的忌避感”を与えるようになる。
この究極的忌避感というのが大きなポイントになるんだが、登校拒否の症状がマックスになった状態…みたいな説明がされる。つまり「何となくいや」な気分が最大限(究極的)に引き上げられる。これによって精神的だけでなく身体にも異常をきたす。STPFに近づくことはおろか、最悪は死んでしまう場合もあるほど。放射能が発生しない放射性物質のような…(ってなんじゃこの説明(笑)) そして厄介なのが、成層圏にある軌道リングが地上にもっとも近づく時に生ずる“孤介時間”。一日二回到来するこの孤介時間では、人類あまねく心身とも著しく不良状態に陥り、あまつさえ自分の心の声(本音)が遠隔感応(テレパス)となって、そこらへんじゅうに漏洩してしまう。本音と建て前を使い分けて、関係(社会)を構築する人類にとって、この状況は恐怖そのものだ。だから戦闘中や医療等、どんなに切迫した状況であっても、孤介時間になると、人はそれぞれ自分の部屋や車の中などの殻に閉じこもり、苦痛をやり過ごすことになる。

(ちょっと逸れたんで話を戻す…)で、さらにさらに厄介なのが、その落下したSTPFの付属物、カラスの使徒たる謎の生物「キッカイ」。このキッカイが、STPF落下地点(徳島県の剣山)を中心に増殖しはじめる。そのために四国は完全に封鎖され、政府によるキッカイ殲滅部隊が編成される。その最終兵器が“ダイナミックフィギュア”と呼ばれる、二足歩行の巨大ロボットというわけだ。
孤介時間とともに、この物語の“枷”になるのが、このキッカイの性質。「概念を学ぶ者」と称されるキッカイは、誕生当初は小型で蜘蛛のような多足生物だったが、対峙する人類から概念を学び、人類と同じ二足歩行形態へと進化する。キッカイの牡(種)には“走馬燈”と呼ばれる器官があり、そこに溜め込んだ概念を死の瞬間に放出、次世代へ形質的に伝達させる。人が木に登るところを見たら、次の世代は木に登るようになるというわけだ。しかも個々のキッカイの概念が全体に伝播するから大変!
これには、国連と交わした「ひとたびキッカイが四国から出ると核投下」という条約が、さらに大きな枷を生む。キッカイの対処に困ったニューギニアは、国土を放棄し、島を国際化することで核を投下、キッカイを始末した…という前譚がある。要するに「四国を明け渡す(国際化する)なら核でやっつけてやるぜ」と国連から恫喝されているというのっぴきならない状況。
人から概念を学ぶわけだから、飛行機による攻撃は以ての外! なにせ次世代には翼が生え、そのまた次の世代には空を飛ぶかも知れないわけだ。そうなると四国からの流出は防ぎようがない。流出即、核攻撃。そして四国という大切な国土が奪われる…。よってここに「匿翼(とくよく)の大原則」が誕生する。…とまあ、この辺の設定が見事に語られているので興味を覚えた方は是が非でも読まれるがいい。
絶望的な状況下、国土を守り、国家としての威信と矜持を見せつけなければならない日本とそこに蠢く人、人、人………
物語はこのダイナミックフィギュアを鉄人28号の正太郎ばりに操る、栂遊星(とが ゆうせい)をメインキャラに進んでいく。…ものすごく梗概の補足が長くなった…(苦笑)

先に“アンチ・セカイ系”と断言したが、その栂遊星がまさにその“アンチ”を象徴するキャラで、保守的であり何よりも調和を大切にする19歳(物語登場時)の少年なのだ。いい歳の大人が読んだり見たりすると、何かとイライラする“セカイ系=自意識過剰系キャラ”と対極を成すわけで、この複雑な物語の語り部としても高性能にその役目を果たし続けている。
そしてもうひとつのアンチ・セカイ系たる所以は、ダイナミックフィギュアを巡る国家間の駆け引きが主体であること。そういう意味では、日本が(地球が)破滅的な状況に陥ったときのシミュレーション的な興味も覚える。遊星はもちろんのこと、同じくダイナミックフィギュアのパイロット、鳴滝調(なるたき しらべ)、藤村十(ふじむら とお)、そしてダイナミックフィギュアを統べる「パノプティコン」のメンバー、さらに、この物語のワイルドカード(!?)佐々史朗などなど、主要キャラたち全てが自分と国家を相対化して行動していく。
要するに、ここで描かれるような大状況の前では、セカイ系だの自意識だの云ってられないってことだ。

遊星の人称を軸にしながらも、文節(アスタリスク)ごとに人称を切り替えていく目まぐるしさが特徴的だが、上記のように登場人物の見つめる方向が同じなので、複雑に見えて意外とシンプルな構成であることに気づく。そしてその構成のお陰で、実に立体的に物語が形成されていく。

…で、一番最初に体温が上がらないので読むスピードが上がらない…と云ったが、上巻の三分の二あたりで明らかになる、主人公・遊星の父で、キッカイ研究機関「ボルヴェルク」主任研究員、栂大地(とが だいち)の一件から、徐々に体温が上がっていき、上巻最後には今までの“異常な正常”からは考えられないスピードで物語が加速していく。
超ややこしい世界観の説明を冒頭、遊星たちのランチタイムに挿入してきたり、先のアスタリスクで人称を分かつ立体的な構造といい、そして勿論、この魅力的なお話の生みの親として、この作者なかなかにスゴイ!! 下巻がますます楽しみになってきた。
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.04 2011 BOOKS comment4 trackback0
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機械猫髭

Author:機械猫髭
片田舎の某フリーランサー。当ブログは個人的な外部記憶装置として始めました。内容は和製のミステリ&ホラー、そしてSF。それと文庫派なので、ハードカバーやノベルズが文庫化されると買い換える派です。

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