ここ最近、Instagramにカマけて帆かけてすっかり読書ペースが落ちてしまった…。いずれまた、ここにInstagramについての覚え書きでもシタタメておこうかと思っているが、まあそれはイイとして、田中啓文さんの危険本に手を出す。結論。馬鹿馬鹿しい…しょーもない…でも面白い!そして、実は深っかい真理にまで辿り着かんとする問題作(か?)………えっと、まあそんな感じ(笑)
五つの短編とそれぞれに盟友(同業者)から批判文が付くという妙な編集。つまり文庫の巻末でお約束の解説が短編いっこいっこに付くわけです。愛ある辛辣な言葉をもって(笑) で、その他しょーもない年表とか歌謡全集(?)とか付属しているけど、そこまで啓文氏に愛はないので割愛…。で、内容。
異形コレクションの作風から察するに、グロい、ゲロい、クサい、気持ち悪い、吐きそう、結局吐いた…みたいなドドメ色が持ち味の啓文氏だが、これはどっちかというと駄洒落に力を入れて、その駄洒落をSFガジェットの隅々にまで落とし込む…という部分が全作に通底している。なので真剣に読むと阿呆らしくなってくる。いや褒め言葉…。
そしていきなりひとつめが
「脳高速」だと…(笑) 銀河まで支配の手を広げた人類にとって最悪の敵「ファントム」を撃退すべく三人の乗組員と千個の脳味噌をのせて<サイモン・ライト二世号>はゆく…。誤変換か何かで思いついたタイトルを敷衍させた物語なのか、まあそんなトコロなんだろうが、これ、五つ全部読んでみると、一番マトモ(?)なお話だったりする。後半にはツイストもあるし、オチもしっかりしてるし。
表題作であるところの二本目
「銀河帝国の弘法も筆の誤り」は、しょーもなさでは抜きん出る。でも、これを読むと、この短編集の“旨味”が判るという仕組みでもある。駄洒落をSFガジェット…と同じく、宗教がほとんどの物語でフックとなっているが、これは当然、空海が出てくる。で、空海が何百年も経っているのに生きているという設定も、“入定”したという故事に則り復活させる。入定ってのは、真言密教でいう即身成仏を経て至る不老不死のことだが、まあこういう豪快な解釈、好きです私(笑) しかも最後には空海と
弓削道鏡を混交させるという荒技も繰り出す! 仮令、内容は失念しようとも、「嘘じゃ、あほ」って名台詞だけは忘れないだろう傑作であった(?)
次の
「火星のナンシー・ゴードン」はもうひとつハマれなかったが、哲弥氏の解説が良かった。で、次。
「嘔吐した宇宙飛行士」。こいつは大傑作でしょう!クダらなさの向こう側に見え隠れする真理!
もうこれはタイトルどおりで、宇宙服の中で嘔吐し、あまつさえ脱糞したまま、宇宙に放り出された宇宙軍新兵のお話。これは小川一水氏の「漂った男」(
「老ヴォールの惑星」収)にも通じる、哲学的・宗教的側面がフックとして使われているが、真摯な小川氏と較ぶるまでなく、宇宙の果てまで脱線していく啓文氏である。
「漂った男」のタテルマ少尉は水だけの惑星で漂いつつ悟りにも似た心境に達していくが、この「嘔吐した宇宙飛行士」の李・バイア二等兵は、宇宙を漂いながら自分というちっぽけな存在に気づき「巨視的には<無>である自分は始まりも終わりもない旅人」という心境にまで達………していきそうになるんだが、やっぱゲロまみれで死ぬのはイヤだそうで、結局は食用蛙を三千八百七十六垓二千九十九京三百五十二兆七千九百十一億千二匹まで羊のごとく数えてしまうという…(笑)
ただ、無限に広がっていった風呂敷のたたみ方が、実はかなり仏教的なので、悪あがきしまくった李ではあったが、とどのつまり悟りに近いトコロまでは行き着いたなあと。
…わ、薄っぺらい短編集でこんなに長くなっちまった。最後の
「銀河を駈ける呪詛 あるいは味噌汁とカレーライスについて」もすごく良かったんだけど、もう止めよ。
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