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上田早夕里「火星ダーク・バラード」

火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)
(2008/10)
上田 早夕里

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上田早夕里さんの作品を手にしたのは、短編集「魚舟・獣舟」に引き続き2つめだが、異形コレクションで数篇こなしてきたので、多いとは云えずとも、片言なりとも語れるくらいは読んできたかなと思う。但し、長編となると、この「火星ダーク・バラード」が初めて。2003年小松左京賞を受賞したこの作品で、上田さんはプロデビューを飾っている。
実は既に「魚舟・獣舟」にも通じる最新の長編作「華竜の宮」も所持(積読)しているのだが、折角なら発表順で行こうと思った次第(なので、華竜~はもうちょい後回しにして、次は「ゼウスの檻」の予定)。
でまあ、ここまでコミットして読もうとしているのも、上田さんの小説が面白い!ただそれだけに尽きる。奇を衒わない正攻法かつ骨太の作風は、SFという狭いカテゴリだけに留まらず、大勢の人を魅了する力があると思う。

ということなので、上田さんの、しかも初の長編というコトで気合い入りまくりで読んでみた。アマゾンによる梗概は以下のとおり…
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火星治安管理局の水島は、バディの神月瑠奈とともに、凶悪犯ジョエル・タニを列車で護送中、奇妙な現象に巻き込まれ、意識を失った。その間にジョエルは逃亡、璃奈は射殺されていた。捜査当局にバディ殺害の疑いをかけられた水島は、個人捜査を開始するが、その矢先、アデリーンという名の少女と出会う。未来に生きる人間の愛と苦悩と切なさを描き切った、サスペンスフルな傑作長篇。
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ちょっと補足する。
火星…。大幅に地球化(テラフォーミング)するのではなく、日本列島がすっぽりと収まってしまうほど巨大な峡谷に天蓋をして(パラ・テラフォーミング)、その中で暮らすことを選んだ未来の人類のお話。梗概にあるとおり、相棒殺しの容疑をかけられた男・水島が、真相に迫らんとするエピソードを物語の発端に、その“奇妙な現象”の原因となった“超共感性”という特殊能力をもつ少女アデリーンと出会い、さらに大きなストーリーに発展していく。…とまあ、大きなネタに触れずに付け足すとこんな感じかな。

真相究明に命を賭けるハードボイルド丸出しのタフガイ刑事水島と、その水島を一途に想う少女アデリーンの関係性もリーディングの原動力たり得るが、この二人にアデリーンの父、グレアムを加えた三角関係が織りなすドラマが本作の真骨頂。で、この三人がそれぞれ他のキャラクターとも別の三角を形成しつつ、鎖のように絡み合っていくので、仮令ギリギリの局面であっても誰がどんな行動をとるのか判らないハラハラ感も生まれる。

そして、特筆すべきは、第四章「黒衣の天使」でグレアムの過去を遡っていく場面。ここで、グレアムが地球と火星の中間に位置する宇宙ステーションで生まれ育ったことが判明し、その後の人格形成に大きく関係していくことが提示される。生まれも育ちも地球の水島、火星で生まれ育ったアデリーン…。 三者三様の【重力】に対する感覚や考え方の違いが物語に独自性を与えていることに、この場面を以て気づかされる。それはとりもなおさず、「舞台が火星でなくては成立しない物語」という一番大切な部分にも繋がっている。
内面語りは水島にもアデリーンにもあるが、この両者はピュアな方向に収斂させていくためか、深く深く掘り下げられてはいるが、ステレオタイプの域を脱していない(言葉は悪いが…いい意味と捉えてもらいたい。なぜならば、そうしたストレート(ステレオタイプ)な設定だからこそ、第六章「選択」と、それに続くエピローグが鮮やかに、そして切なくなるわけで、物語の起点を作り、かつ「負」の部分を担当していたともいえるグレアムの描写が、この二つの章では殆どないというのも、三人の内面の書き分けがあるからこそ、納得できる部分である)。グレアムに関しては、第五章「焦熱の塔」でもさらに突っ込んだ内面発掘が再開されるが、これもまた大きな鍵を握っている。

…いやしかし、ナンダカンダ云っても面白かった!ハラハラドキドキ、怒り憎しみ、悲しみ、そして涙と、笑いこそないが、それ以外の感情を総動員して楽しませていただいた。
そろそろ人前で上田早夕里ファンと名乗らせてもらっても良いかもしれないな(笑)


※本作の文庫化にあたり、水島の年齢を元の三十歳から三十九歳にしたり、「選択」という章が加えられたりと、かなりの改稿な成されているとのこと。いずれ、ハードカバーも読み、比較してみたいところである。
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.29 2011 BOOKS comment0 trackback0
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機械猫髭

Author:機械猫髭
片田舎の某フリーランサー。当ブログは個人的な外部記憶装置として始めました。内容は和製のミステリ&ホラー、そしてSF。それと文庫派なので、ハードカバーやノベルズが文庫化されると買い換える派です。

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