夢魔―異形コレクション (光文社文庫)
テーマは「夢魔」だが、どちらかと云えば、夢(悪夢)といった趣きの作品が目立った。
これがまだ、うつつ部分に軸があるといいのだが、夢部分に軸足を置いたフワフワした幻想譚が多く、読むのに兎に角、疲れる。正直、イライラして飛ばし読みした作品も多数。
(
田中哲弥「げろめさん」については強烈な吐き気を催す描写の数々に生理的限界をきたし、読みたい気持ちあるのに残念ながら途中でリタイヤ。)
…まあ、とはいえ、取りあえず気に入ったものを挙げてみる。
民俗学を下敷きにした怪異譚として手堅い仕上がりの
霜島ケイ「夢憑き」。物語が提出した謎にキッチリと引導を渡してくれた
奥田哲也「ドクター・レンフィールドの日記」。寓話のような味わい深さの掌編、
江坂遊「浮人形」。唯一の宇宙もののSFホラーで攻めた
小林泰三「脳喰い」。短編という強い拘束性のなかで魅力的なキャラクターを創造した
久美沙織「偽悪天使」。殺伐とした空気感を卓越した筆致で表現した
倉阪鬼一郎「片靴」。以上の作品は、うつつにシッカリと軸を置いたからこそ夢が引き立つといった仕上がりで読み応えもあった。(
平山夢明「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」は既読につき除外。もちろん鬼畜につき最高。)
しかし、なんと云っても白眉は
菊池秀行「夢魔製造業者」だろうか。まさか異形で泣かされるとは思わなかった…。すべてのB級映画好き、ホラー好きに捧げられた物語。これらの趣向がある方なら、この物語だけでも読まれるといい。ホラー愛好家の菊池氏ならではの映画愛に包まれた一篇であった。
【上記のように良いものもあったが、作品数が多いうえに今ひとつな作品が目立った本コレクション。本来ならトータル★2つというところだったが「夢魔製造業者」に免じて★3つ】
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