とりあえず、Amazonによる梗概を
池袋署に異動になった姫川玲子、常に彼女とともに捜査にあたっていた菊田和男、『インビジブルレイン』で玲子とコンビを組んだベテラン刑事・下井、そして悪徳脱法刑事・ガンテツ。今回、彼らが挑むのは、裏社会の住人を狙い撃ちにする謎めいた連続殺人事件。殺意は、やがて刑事たちにも牙をむきはじめる……。
姫川シリーズもこれで長編が4作目。ことここに至ってシリーズものとして(ある意味でライトな)作風が盤石になってきたように思う。
井岡や國奥といったコメディ・リリーフによるお約束や、菊田やガンテツなど人気のキャラはちゃんと本編に絡める、といった部分を抑えつつ、ストロベリーナイトやソウルケイジのような「その作品単体でガツンとくる」部分よりも、次に繋げようとするドライブ感を重視した内容で、
前作のインビジブルレインが引っかき回した部分をちゃんと修正したという部分も含め、シリーズ全体のファンとして嬉しい仕上がり(原点回帰)になっていると思う。
大沢氏の新宿鮫シリーズのような、単体でガツンとさせながらドライブさせていく…という領域には達してないけど、このライトなドライブ感が姫川シリーズの良さじゃないかな? 例えば、トキオに対する掘り下げの甘さも、ライトにドライブするシリーズと考えれば、まあ許容範囲かと…単体作品だったら完全に減点対象ですけどね(笑)
とはいえ、残酷描写に関しては、ストロベリーナイト級というか、どちらかというと同じ誉田氏の「ジウ」に近い。その残酷パートを牽引する犯人・ブルーマーダーのキャラは、「ファイトクラブ」のタイラー・ダーデンと「ダークナイト」のジョーカー等がキャラ着想になっているのかな。
それと、シリーズものとして必須なキャラ立ちに関して言うと、ガンテツは明らかにドラマの影響を受けて、ちょっとイイ奴っぽくなってきてる(笑) これはストロベリーナイトに登場した大塚の人物像が、それを演じた桐谷健太に回収されていった
前例もあるので予想の範囲内ではあるけど、そういう誉田氏の鷹揚さも包括しつつ、本シリーズは、原作原理主義みたいな鬱陶しいノリから解放されたものとして、小説とドラマ(及び映画)お互いがいい影響を与えつつ続いていって欲しいと思う。
あ、ただ、日下が出てこないのは不満だったなぁ! 次作には期待してます。
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地元が舞台ということで「変若水(をちみづ)」読む。
Amazonの梗概はこう…
厚生労働省に勤務する向井俊介は、幼馴染の女医が突然死した真相を追及するうち、ある病院告発する文書の存在を掴み、島根と広島の県境にある雪深い村にたどり着く。 そこには変若水村と呼ばれ、古くから誰も見てはならないとされる雛祭りがある奇妙な村だった。相次ぐ突然死と、変若村で過去におこった猟奇事件の謎に向井が迫る――。
医療猟奇因習てんこ盛りで一気読み。特に因習部分は横溝時代よりさらに凶悪になり、久々手に取ったミステリだったが、トータルでなかなか面白かった。
がしかし、舞台となる村の位置もだいたいあの辺と判るが、あの辺りだと作中で使われている方言が微妙に違う。あと、渡橋は出雲市駅からR9を西に向かうし、いわんや宍道湖に到達した時点で出雲市ですらない…などと地元読者ならではの間違いが気になってしまったのがちょっと残念。
「贖罪」文庫で読了。「自分がこう思うから他人もそう思ってるはず」が基本思考の痛いくせに鈍感な女が引き起こす死の連鎖。特に第五章「償い」の歪みっぷりは腐臭さえ漂ってきそう。いつもなら「湊かなえ十八番の責任転嫁メソッドだな」で読み終わったろうけど、巻末の黒沢清インタビューが読み応えあって見事に補完してくれた。ドラマ未見ならばまずは文庫読むべき。
内容もさることながら、まずは〈新☆ハヤカワ・SF・シリーズ〉の装丁の心地良さに惹かれて読んだと云っても過言ではない。手塗りという小口塗装のわずかなムラだとか、全体を覆う柔らかなビニールの質感だとか、日頃、文庫だろうとハードカバーだろうと、表紙を外して読む派ではあるが、今回ばかりは質感を楽しみながら読んでみた。
以下、Amazonから梗概引用
化学物質の摂取過剰のため、出生率の低下と痴呆化が進行したニューヨーク。市の下水ポンプ施設の職員である主人公の視点から、あり得べき近未来社会を描いたローカス賞受賞の表題作。石油資源が枯渇し、穀物と筋肉がエネルギー源となっているアメリカを舞台に、『ねじまき少女』と同設定で描くスタージョン記念賞受賞作「カロリーマン」。身体を楽器のフルートのように改変された二人の少女を描く「フルーテッド・ガールズ」ほか、本邦初訳5篇を含む全10篇を収録。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス賞受賞の『ねじまき少女』で一躍SF界の寵児となった著者の第一短篇集。
『ねじまき少女』は未読だが、本書は単独で読めるものばかり。デビュー作『ポケットのなかの法(ダルマ)』のデータメモリーに込められたアイディアや、『フルーテッド・ガールズ』のフェティッシュな世界観。現実の(そしてどこででも起こりうる)問題と地平を同じくする『パショ』等、冒頭から独特な面白さで畳み掛ける。
なかでも気に入ったのは、『砂と灰の人々』『カロリーマン』『ポップ隊』そしてタイトルロールの『第六ポンプ』かな。
人類以外の生態系が壊滅した世界で戦う兵士たちが、ミッション中に絶滅したはずの犬を捕獲したことで始まる犬との暮らし(というのか?)を描いた『砂と灰の人々』。とにかく世界観が異様。砂から栄養分を摂取する人類は、汚染環境に適した新しい生命体のようで、登場人物たちがそこいらの砂をスナック感覚で掴んで食べるのも異様だし、休暇で訪れたハワイの砂浜には汚染されつくした重油まみれの黒い波が押し寄せ、そこでバカンスを楽しむという情景も異様。そんな異様づくしの世界で、前時代の生き残り(犬)との齟齬をアイロニカルな視点で描く。なんというか、いろいろな示唆を含んだ印象深い一篇。
「ねじまき少女」と同じく、ゼンマイが全てのエネルギーになった世界観で描かれる『カロリーマン』は、やはりその独創的なアイディアに尽きますね。後書きにある訳者の説明が簡単明瞭なので少し引用すると、鉱物資源が枯渇し、穀物と筋肉がエネルギー源となった世界で、市場を支配するのが高カロリー穀物を独占しているのが、石油メジャーに代わる「穀物メジャー」。
要するにこの高カロリー穀物を飼料として、遺伝子操作で生まれた家畜の力(筋肉)を使ってゼンマイを巻く。そのゼンマイを動力源とした世界。有り体に云うとこんな感じ。もうこれだけでいくらでも物語が出来そうな、そんな屈強な設定だなあと。「ねじまき少女」も読まねばなあと。
不老不死が確立され、今いる人間だけで生きていくべく出産育児が違法となった世の中を描く『ポップ隊』もまた、『砂と灰の人々』同様に歪な人間観を描く物語。異常な世界に芽生える母性(違法者)を狩るポップ隊に所属する主人公の揺れ動く気持ちが、異常な世界に幾ばくかの光明をもたらすかのよう。そしてタイトルロールの『第六ポンプ』もまた、過去の叡智を喰らい尽くしたどん詰まりの人類を描いた傑作。
現代社会への警鐘をテーマとする物語が大半を占める本作。地続きゆえの不穏さに暗澹たる思いが募るが、どんなに歪んだ世界になっても人間は生きているんだろうなあ…という諦観めいた感情もおぼえる。けして楽しい物語ではないが、斬新かつ独創のアイディアに刮目しつつ、きたる時代に戦きつつ読むべし。
誉田哲也の全作品を余すことなく紹介する特別本だが、冒頭の姫川玲子シリーズ最新短編『女の敵』は必読!
『インビジブルレイン』で“気になる”結末を迎えていただけに、この短編が『小説宝石』で連載中の姫川シリーズ最新長編『ブルーマーダー』の橋渡し的な役割を(そこそこ)果たしてくれる。
物語は、姫川が『ストロベリーナイト』で殉職した大塚刑事の墓前で、過去の事件を回想するというものだが、内容ともかく面白いのが、回想で登場する大塚の人物的特徴が、どう考えてもドラマで大塚を演じた桐谷健太そのまんまなのである。誉田氏がテレビドラマ版『ストロベリーナイト』を吸収しちゃってるんだろうなあ(笑)
まあ、あの桐谷健太の大塚は本当に良かったし、こういう補完もあるんだなあ~と…
てことになると、西島秀俊の好演により、原作よりも含みの多いキャラクターに転じさせたに菊田の今後も気になってくる。
『ブルーマーダー』が楽しみだ。